経営戦略は、どのようなものでも良いというものではありません。経営戦略は、組織との適合性が重要です。
経営戦略と組織の関連性について、アメリカの経営史学者チャンドラーは、「組織構造は、戦略に従う」としています。
経営戦略と組織
大量生産、大量販売によって成り立つ価格戦略は、生産、販売、経理などのように機能別(職能別)に部門化していう機能別組織が適しています。一方製品差別化戦略は、事業部性を採用する例が多いなど、経営戦略に対応した組織形態である必要があります。
組織形態
経営戦略に対応した組織形態としてこのようなものがあります。
事業部制は、製品、地域、取引先などを単位として部門化し、独自の利益責任を持つ経営単位として事業部を設置し、権限を移譲することによって分権化する組織形態です。
カンパニー制は、事業部門を独立した企業とみなしながら利益管理や資金管理などを行うもので、持株会社の傘下に独立した企業を擁する組織形態(持株会社制)と事業部制の中間的な性格を有する組織形態です。カンパニー制のカンパニーといっても法律上の制度では無いので、カンパニーの独立性が高いものから事業部制とほとんど変わらないものまで多様なものがあります。
持株会社制は、事業部やカンパニーのような社内組織ではありません。事業ごとに人事権などのグループ全体の方向性を定める役割は、本社(持株会社)がもちます。各事業を行う法人は、個別の法人格があり、連結財務諸表を公開している場合、連結経営における一事業部門と考えることもできます。
留意点
企業が自社に最適な組織形態を選定する上で留意点があります。
戦略に応じた組織形態の選択
多角化戦略を採用した企業が機能別組織から事業部制組織に移行していくと経営学者のチャンドラーは、示しています。また企業が内部拡大戦略や垂直的統合戦略を採用する場合には、機能別組織が有効で、多角化戦略を採用した場合は、事業部制組織が有効としています。
多角化戦略を採用する場合、事業部制、カンパニー制、持株会社制へと分権化を勧めた組織形態がそのメリットをより効率的に発揮します。
競争力を持つ特定事業分野似特化する場合、分権化を行う必要性は、あまり無いですが、既に多角化しており、競争力が弱い事業分野から撤退や縮小して競争力を有するコア事業に絞る選択と集中の戦略を採用する場合には、企業売却を行いやすい持株会社形態のほうが迅速に対応できます。
事業分野間の異質性への対応
事業分野間の異質性が大きいと事業分野間の利益相反も大きくなることが多いです。各事業分野に権限を委譲し、独自に運営させ、本社機能が全体の調整を行うスタイルが事業ごとの活力向上となります。事業分野間の異質性が大きいと求められる人材も異なるため、人事システムや賃金体系を変える必要性もあります。
事業分野間の異質性が小さく、規模の経済の効果が発揮される場合、分権化のメリットは相対的に小さくなります。
本社機能の統率力の有無
各事業部が独立した事業活動を行いながら、成果を得るには、本社機能が長期的な戦略に基づいて目指すべき方向を明示し、事業部の求心力を高め、事業部間の利益相反関係の調整やリスク管理などを行う統率力が必要です。
本部機能が強すぎて事業部の独自性を残っては意味がなくなるため、任せるべきところは任せ、諦めるべきところは諦めるといった柔軟な統率力が要求されます。
新規事業、新商品開発への投資
新規事業に多額の投資を行う場合、黒字化、キャッシュフローペースでの投資額回収に長い期間を擁することがあります。また、事業部の独立採算制を追求すると赤字の新規事業部門に所属している場合、従業員の評価や処遇が低くなりモラールダウンを引き起こすことがあります。ちなみにモラールダウンとは、従業員のやる気やモチベーションのことです。
新規商品開発に多額の投資を行うと、短期的には、その事業部の収益性を低下させることになり、短期的な業績に視点が置かれている評価体系の場合、新製品開発費を抑制したほうが高い評価が得られるといった新規事業や新製品開発が消極的になるという弊害が生じます。
新規事業や新製品開発の適正投資は企業発展に欠かせないため、長期的な観点から設備投資、人材育成を行える仕組みや評価体系を構築する必要があります。
戦略と組織
チャンドラーのいう「組織構造は戦略に従う」というように、経営戦略に対応した組織形態であり、留意点も踏まえ構築していくことが必要です。
ただ、なんとなく事業部制、カンパニー制、持株会社制ということではなく、しっかりと戦略と組織にあった対応が必要になってきます。